1. はじめに
保育園では、アレルギーを持つ子どもたちの安全を確保するために、全職員が一貫した対応を行うことが重要です。このガイドブックは、アレルギー対応の基本方針と具体的な手順について説明し、全職員が適切に対応できるようにすることを目的としています。
2. 食物アレルギーとは
食物アレルギーは、食べたり、触れたり、吸い込んだりした食物に対して、身体を守るはずの免疫システムが過剰に反応し、身体に異常な症状が現れる病態です。多くの場合、食物に含まれるたんぱく質が原因で発生します。
症状の発現時間による分類
- 即時型:食べてから2時間以内、主に30分以内に症状が現れるタイプです。保育園ではこの即時型に対する緊急対応が求められます。
- 非即時型(遅延型):食べてから症状が現れるまでに時間がかかるタイプです。
即時型の症状
- じんましん、かゆみ
- 呼吸困難、咳
- 嘔吐、腹痛
- 顔や手足の腫れ
<アレルギー症状の重症度評価と対応>
グレード | 1(軽傷) | 2(中等症) | 3(重症) | ||||
皮膚症状 | 発赤、蕁麻疹 | 部分的、散在性 | 全身性 | / | |||
痒み | 軽度の痒み | 強い痒み | / | ||||
粘膜症状 | 口唇、瞼の腫れ | 口唇、瞼の腫れ | 顔全体の腫れ | / | |||
口、喉の違和感 | 口、喉の痒み、違和感 | 飲み込みづらい | 胸部絞扼感、嗄声 | ||||
消化器症状 | 腹痛 | 軽度の腹痛(我慢できる) | 明らかな腹痛 | 強い腹痛(我慢できない) | |||
嘔吐・下痢 | 嘔気、単回の嘔吐、下痢 | 頻回に嘔吐、下痢 | 頻回に嘔吐、下痢 | ||||
呼吸器症状 | 鼻水、鼻づまり | あり | / | / | |||
咳嗽 | 強く連続しない | 時々連続する | 強い咳嗽、クループ | ||||
喘鳴、呼吸困難 | / | 軽度喘鳴 | 重度喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ | ||||
全身症状 | 血圧低下 | / | / | あり | |||
全身状態 | やや元気がない | 明らかに元気がない | 意識レベルの低下~消失、失禁 | ||||
対応 | 抗ヒスタミン薬 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
ステロイド | △ | △ | △ | ||||
気管支拡張薬吸入 | △ | △ | △ | ||||
エピペン | × | △ | 〇 | ||||
医療機関受診 | △ | 〇(応じて救急車) | ◎(救急車) |
3. アレルギーの把握
- 情報収集
・入園時に保護者から子どものアレルギー情報を詳細に収集し、アレルギー児リストを作成します。 - 情報共有
・アレルギー児リストを全職員で共有し、子どものアレルギーの種類や緊急時の対応方法を理解します。
・新人オリエンテーションの際に、アレルギーの症状と対応を説明します。
・個別対応や除去食の追加などの指示が出た場合は、都度、全職員で再確認を行います。
4. 食事の管理
- 調理スタッフは、アレルゲンを含まない食事を提供するため、専用の調理器具と調理エリアを使用します。
- 食材を使用する前にアレルゲンが含まれていないか確認します。
- アレルギー対応食には食札を起き、誤配を防ぎます。
- 保育室へ配膳前に、調理師と看護師または園長で除去食のチェックをする。
5. 誤食防止のための環境整備
- 食事環境の整備
・アレルギーを持つ子どもと他の子どもが食事を取る場所を分ける。
・特定の食材を持ち込まないエリアを設ける。
・テーブルと椅子は、専用または定位置にする。
・アレルギー対応食専用の食器やトレイを用意し、他の食器と区別する。
・食事中は職員が子どもたちをしっかり見守りを行い、誤食を防ぐ。 - 手洗いの徹底
- 食事前後の手洗い:全員が食事前後に手洗いを行い、アレルゲンの拡散を防ぐ。手洗いの方法を徹底指導する。
- 共用物の管理:テーブル拭きなどの共用物を適切に管理し、アレルゲンの接触を避ける。
- 調理エリアの管理
- 専用調理スペースの確保:アレルギー対応食専用の調理スペースを確保し、他の食材と接触しないようにする。
- 調理器具の分別:アレルギー対応食専用の調理器具を用意し、他の調理器具と区別する。
6. 緊急対応
- エピペンの使用
- エピペンの配置:エピペンを適切な場所に配置し、全職員がその場所を把握する。
- 使用手順の確認:全職員がエピペンの使い方を理解し、緊急時に迅速に対応できるようにする。
- 定期点検:エピペンの使用期限を定期的に確認し、期限が切れたものは速やかに交換する。
- 緊急時の連絡
- 緊急連絡体制の確立:緊急事態が発生した場合の連絡体制を確立し、全職員に周知徹底する。
- 119番通報:緊急時には速やかに119番に通報し、状況を正確に伝える。
- 保護者への連絡:緊急事態が発生した場合、速やかに保護者に連絡し、状況を説明する。
- 応急処置の手順
<重症>
・その場で仰臥位にして衣服を緩め、足を30cmほど高くする。
・救急車を呼び、必ずエピペンを使用する。
・心肺停止の場合は、速やかに心肺蘇生を行う。
・救急隊の対応:救急隊が到着するまで見守り、子どものアレルギー情報とエピペンの使用状況を伝える。
<中等症>
・その場で動かず安静にする。
・飲み薬で対応。エピペンの使用可
・医療機関へ連絡。(救急車考慮)
<軽症>
・静養室で安静にし、十分な観察を行う。
・飲み薬を使用し、保護者に連絡。
<緊急時対応フローチャート>
7. 職員の教育と研修
- 定期研修
- アレルギー対応の基礎知識:アレルギーの基礎知識や最新の情報を学ぶ定期研修を実施する。
- 実践的な訓練:実際の状況を想定したシミュレーション訓練を行い、緊急時の対応能力を向上させる。
- 研修内容の更新
- 最新情報の反映:最新の医療情報や対応策を研修内容に反映し、職員の知識をアップデートする。
8. 保護者との連携
- 情報提供
- 対応方針の説明:保護者に対してアレルギー対応の方針と具体的な対策を説明し、理解と協力を求める。
- 緊急対応策の共有:保護者に緊急時の対応策を共有し、家庭でも同様の対応ができるようにする。
- 意見交換
- 定期的な意見収集:保護者からの意見や要望を定期的に収集し、対応策の改善に役立てる。
- 双方向のコミュニケーション:保護者とのコミュニケーションを重視し、連携を強化する。
- 情報の更新
- アレルギー情報の更新:定期的に子どものアレルギー情報を更新し、保護者からの最新情報を反映する。
- 保護者への報告:保育園での対応状況や緊急時の対応結果を保護者に報告する。
9. 参考資料
- エピペンの使い方マニュアル
- 緊急時対応記録表
- アレルギー症状チェックリスト